[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]
ユタ6
梅を見た。
桃を見た。
杏が見たい。
三月の
雪の朝に生まれたから
北国に憧れたのか、
犀川
北上川。
ユタのピアノも
空気がぴりりと澄む。
フキノトウや
ジジババを見つけながら
まだ寒い春をかきわけていく
そんなピアノを弾く。
そう言えば
ディックにも
トニフラにも
早い春の光と空気がある。
ドドはもう少し
闌けた感じも出すが、
みんな揃って
茂りの夏と
実りの秋に縁が無い。
ぼくもまた
還暦過ぎても
書生のままで、
喉がヒューヒュー笛を吹くのに
下萌の時期。
秋はなんと遠い季節なことか。
椿を見た。
馬酔木を見た。
杏が見たい。
辛夷が見たい。
姫川、千曲川
春が闌けたら
入 内 雀たちはどこまで帰るの
か。
小 白 鳥も
いつまでも小さな溜池にはいない。
泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]