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春とピアノ アイコン

ユタ5



ディック・ツワージクを聴く。
夜明け?
いや、午前十時。
余寒厳しく
雀たちはみな
食後、沈丁花に潜り込んだ。

寝起きが
少し乱れて、危うい。

独り薬に溺れず
滅びに向かわず
りんと自己を貫いたユタだけが、
ドドや
ディックや
ぼくの希望の光。

ユタは恥ずかしがり屋だから
そんなことは告げないけれど
ほんとに
かってに
ユタはみんなの救いなんだよ。

なのに
ユタのところに――
津波が来た。

ディックのピアノで
こんな詩を書き出したのも
あとにユタがいるから、
ユタまで進めば
ディックや
ドドは勿論、
詩も作者も救われるだろう、
そんな希望を燃やし続けて。

半世紀前のように
ユタを失うことは免れた。
さて、これから
どうすればいいのか、
ユタのところで
見通せるはずだった
詩の行方も出口も分からない。

アドリブのさなかで
迷子になったら、
ディック
あるいはドドならどうする?

「I'm Glad There Is You」

チェットのソロに続く
ディックのピアノが、
何事もとろけるほどに美しい。




泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]