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ユタ3
ユタが
ぷいとジャズに背を向けて
姿を消してしまったからと言って、
ぼくもこのまま
ユタの詩から
遠離ってしまうわけにはいかない。
播磨の盆地で
繊細な
三つか四つの魂を探っていたら、
日本海溝で地盤がずれ
地震と津波。
マグニチュード九・〇
三陸の町は
どこも波に呑み込まれ
舟が、
家が、
車が、
人が、
押し流された。
波は想像力の高さも越えて、
白紙も
詩心も
音符も言葉も水浸し、
多くを沖合へ
掠っていった。
ユタやドドの
神経は過敏、
こんな事態でだれを書ききれるだろう?
こんな事態をだれが弾ききれるだろう?
もともとピアノは
弱い楽器なのだ。
弱い魂が
弱い魂に共鳴し、
デビューしたばかりで消えていった
一人のピアニストを思いやっていたら、
いつかは訪れてみたかった地で
百人千人単位の死者、
南三陸町などは
一万人の住人が消息不明のまま。
詩の磁場は崩壊し、
夜明け前に
ディックのピアノを聴くことも止んだ。
ようやく取り掛かれた
ぼくの復興も中断し、
ドドもユタもまた消えてしまうのか?
被災者も
孤独者も
弱者は
ピアニッシモからスタートする。
いまはただ
ユタのピアノを聴くばかり。
泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]