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春とピアノ アイコン

ユタ2



ひなびた町の
鄙びた店の
小さなワゴンの中に
ユタを発見した。

ユタ自身は
一九五六年の
ヒッコリー・ハウスというレストランで
ピアノを演奏している。
四月だった。

前に会ったのは、四半世紀ほど昔。
犀川べりの古家を
ヒッコリー・ハウスにして、
ピアノを演奏してくれたのだが。

その頃、若い鍛冶師が
カリブ海の
小さな島の音楽を一杯持ってきた。
ダブや
ナイヤビンギ
ジュジュ、ンバラ
アフリカ西海岸にも夢中だったし。

ユタにはつれなくした。
ワゴン・セールで
バツが悪そうだったが
彼女に責任はない。
バツが悪いのはこちら。

一九五六年のユタも
一九八四年のぼくも
まだ最初の夢を叶えようとしていた。
まさか絵に転じるなんて。
何があったか知らないし
おおよそ察しはついても
いまとなっては…………
ただしいつも、ユタは悪くない。

ワゴンの前で
しばらく逡巡した。
もう長くCDやLPを買っていない。
コレクションを減らして
簡素な身一つになる算段ばかり。
夢は壊れていたし
金も巡ってこない。

ちょっとひどいんじゃない
とはユタは決して言わない。
口を噤んで
さらさらといるだけ。
見かねたのか
若い頃の詩句が
ぼくの財布を勝手に開けて
ヒッコリー・ハウスを移す手続きをした。
二〇〇九年、
四月だった。




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