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バド
故郷にあって
異郷にいる如く、
内陸の
孤島に住む如く。
七年の歳月が過ぎて
さて、
と呟いたところで
なんの思案もない。
「the invisible cage」
そんな言葉がよく思い浮かんだ。
そんな言葉を題名にした
ピアノ・アルバムと
ピアノを弾いている奏者のことも。
ディックから見ると
雲の上のひとかも知れないが、
アール・ルドルフ・バド・パウエル、
そのひとは
檻の中にいた。
いま、そのアルバムを聴きながら
(「my old flame」が流れている)
七日の午後に
檻の中に届いた
一枚の絵葉書を眺めている。
白山の堅豆腐を
差し入れてくれたこともある
差出人のダンサーは、
春の雪の中にいて
ことしこそ桜が待ち遠しいと言う。
そうだね、
桜。
バドもディックも連れ立って、
なんなら
辻潤も亀之助も。
ドドやユタが居たっていい、
おかしな一座だけれど
みんなで花見に行きたいね。
みんなに春が来たらば、ね。
泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]