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春とピアノ アイコン

ディック6



六二歳の最後に食べたもの
肉じゃがと
キムチ
若布の味噌汁。
そうそう、と思い出しながら
洗い忘れた食器を
六三歳の夜明けに片づけている。

一年の計は
もはや元旦にも
誕生日の朝にもない。
昨日と同じく
ディック・ツワージクのピアノを聴く。

パソコンを起ち上げ、
原稿ソフトの
新規書類を開く。
白紙をぶらぶらとしてみたい。

リハーサル
そういうものをやってみたかったが、
白紙はただまっしろなまま。
ポロン、ポロン
でたらめにキーを叩けば、
「乗れ島の茎の尻の(「の」の連続)」
こんな具合に変換しては来るけれど。

煙草を吸わず
ひょろりとせず
その他
ぼくではないような
六三歳になって、

ガムと
昆布と
ディックのピアノ。
それから
間もなくやって来る雀たち。




泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]