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ディック5
低人
――という言葉がある。
言い出したのは
辻潤。
低人と呼ばれて
うれしがる人はいないだろうが
自分に向けていったものだから。
他人には言いにくいが、
じつは
低人と
(敬愛の念で)
呼んでみたいひとがいる。
それがディック、
あなたを雇った
あなたのボス、
その頃人気絶頂だったトランペッター。
敬意は持っていても
低人としての全貌に。
内緒だけれど
歌もラッパも
これまで苦手にしてきた。
ほんとうのところ、どうなんだろう?
あの頃は
みんなへろへろで
誰が滅んでもおかしくなかった。
ディックなどは
本人すら気づかない間に。
そこへゆくと
ディックの若きボスは
数十年かけて
滅びを全うしたようなもの。
辻潤は
子息が病院を訪れた時、
日向ぼっこをしながら
ボサボサの頭や
肩に雀を乗せて喜んでいたという。
この風景が
とても愛おしい。
低人を愛する
低人の閑居には、
このところ
ディック・ツワージクの
短いソロ・パートを従えて、
毎日
チェット・ベイカーがやって来る。
泉井小太郎 春とピアノ―[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]