ディック4a
夜明け前に
ディック・ツワージクのピアノを聴く、
それが習慣になった。
夜明け前に起きればだが。
調律の狂っているのは
かれの弾くピアノだけではない。
ぼくの住む世界も
どんどんものごとが外れている。
それにしても
この世に残した
たった七曲の
ピアノ・トリオ、
それからソロで
ひと続き四〇分ほどのリハーサル。
(コンプリートと銘打ってあるのが悲しい)
夜明け前には
草木も
鳥も目覚めて
魂もウォーミング・アップする。
首尾よくいけば(Nice Work If You Can Get It)
――と、ディックは演奏する。
夜明けに
幸運を手(Get Happy)にして、
ちょっとした奇蹟でも起きればいいナ。(It Could Happen To
You)
ディック4b
蒲団の中で
リハーサル・ピアノを聴く、
最高にいいそうだ。
目覚めると
妻はまず iPhone を起動し、
ディック・ツワージクのプレイリストを開く。
ほどよく遠くて
ほどよく近くて
音の距離感が案配いいのだと。
そういえば、昔
薄雲のたなびく夜に望遠鏡を出して、
蟹座の
プレセペという星団を眺めたことがある。
ちょうど木星の
四大衛星も視野に入っていて、
雲が通り過ぎる度に
星が浮き沈み、
神秘的なダンス
宇宙のバレエを堪能した。
ディック・ツワージクのピアノも
そのように浮沈する、
明滅する。
では、二曲
「yellow tango」
「a crutch for the crab」