何してるの、      何を考へてるの、  
           何か見てゐるの、          
         \            何かしらべに来たの。
           \                      


ihatovon note -3


51
美ケ原の霧を食べていたこども、
乗鞍岳の雲を噛じっていたこども、
みんな蒼く湛へ青く展がるイーハトーボのこどもたち。
(8.12)


52
野原にぼんやり座っていると、
70年ほど前に風が賢治さんからさらっていった言葉のきれぎれが、
大循環の果てにひょっこり巡ってくる・・・
(8.14)


53
星界と天界(仏界)はどのように一つであるか?
宗教と科学、信仰と宇宙の合一を念願する賢治さん。
1924年8月17日未明、早池峰山の山巓での問いと祈り。
(8.17)


54
賢治さんの時代は、銀河が一つではないかもしれないと気づき、
わたしたちの時代は、宇宙が一つではないかもしれないと考え始めました。
誤つてかあるいはほんたうにか
銀河のそとと見なされた
星雲(ネビユラ)の数はどれだらう

(8.21)


55
夢の夜空に短歌数首が垂れていました。
オーロラのように時々微かにゆれ動きます。
こんないたずらが出来るのは太陽マジックの詩人に違いありません。
それとも102歳の近詠を発表してくれていたのでしょうか?
(8.27)


56
そこが島でもなかったとき
そこが陸でもなかったとき
鱗をつけたやさしい妻と
かつてあすこにわたくしは居た

1896年8月27日にイーハトーヴに現れて、
1933年9月21日に去って行ったはずの人…
(8.28)


57
あ、西さん、あ、東さん。あ西さん。あ南さん。あ、西さん。
風に靡く芒の穂。
ときどき、これを真似て運動します。
体をやわらげるいい体操になります。
(9.5)


58
煩悶があるので、明日雨が降れば、
竹と楢との青い林の中へ行ってみたいのですが、
傘をさして行くのでしょうか、
合羽で行けばいいのでしょうか?
それともやはり煩悶ならば、濡れたままにするのでしょうか?
(9.6)


59
風野又三郎から、サイクルホイールや大循環の話を聞き、
ライアル・ワトソン博士から風の社会学や心理学を聞く。
われわれは風の子供である。
風の才覚によって種蒔かれ、
水を与えられ、はぐくまれてきた。
「風の博物誌」河出書房新社
風のすぐれた子供であった賢治さんは、こう語っています。
(風と嘆息との中にあらゆる世界の因子がある)
(9.14)


60
イーハトーヴは震動しています。
岩手山は3月から火山活動が顕著になり、
火山性微動や地震を繰り返しています。
9月3日には雫石でM6.1(震度6弱)という大きな地震も起きました。
16日には台風5号が駆け抜けて山野や農作物を傷めていきました。
現在、岩手山は登山禁止措置がとられているようです。
(9.17)

岩手山火山関連情報


61
<こんなことはじつにまれです>
と、詩「東岩手火山」にある静かな山頂の夜。
御室火口に出入る生徒たちの提灯や口笛、
海抜六千八百尺の月明になく鳥の声、
気圏オペラの役者の走らせる鉛筆のさやの光などが、
76年の歳月を越えて、妙に生々しく感じられてきます。
(9.18)


62
賢治忌の座敷童子のごとき星
よく見れば、といっても誰も気付かないでしょうけれど、
夜空に星が一つ増えています。
そんなことが賢治祭にはあってもよさそうです。
それが星の童子に化けたご本人だったらなおさらです。
そんなことが得意だったひとのようにも思えるのですが
(9.21)


63
男たちがせっせと薪をくべ、
窯はゴオゴオーと鳴り続け、
炎の龍が噴き出して・・・
賢治忌に窯を焚くのは何やら感慨深いものがありました。
火と土、化学舞踊と言ってもいいようなパフォーマンスです。
現象表現の名手だった賢治さんなら、どう綴ってくれるのでしょうか?
(9.29)


64
今年の月天子は、土星と木星の間で十五夜を迎えました。

  ・   ●     

かしはばやしならずとも、月を愛でるもののよろこびは、
<あなたのそらにかゝるまゝ>
(10.8)


65
ああ、どこか
大きな帽子をかぶつて
おほびらにあるける野原が開いていないか。
(10.16)


66
岩手山に20日、初冠雪だそうです。
岩手やま/あらたに置けるしらゆきは/星のあかりに/うすびかるかも
大正6(1917)年の短歌。
10月下旬に弟清六さんらを伴って登山を試みています。
短編「柳沢」にその時の様子が描かれています。

「はてな、山のてっぺんが何だか白光するやうだ。何か非常にもの凄い。
雲かもしれない。おい、たいまつを一寸うしろへかくして見ろ。
ホウ、雪だ、雪だ。雪だよ。雪が降ったのだ。」

(10.20)


67
賢治さんの岩手山白光体験に注目、それを追体験した人がいます。
新潟大学の超高層物理学の権威、斎藤文一博士です。
1977年から3年間、10月下旬の柳沢で観測、
1979年10月21日の初冠雪の夜に、ついに白光を捉え、
「宮沢賢治の夜光を見た」と著書に詳しく記されています。
博士によると、白光現象には最低3つの条件があるそうです。
新月の季節であること。
冠雪があること。
夜光が強まること。
  −「宮沢賢治と銀河体験」国文社
夜光(大気光)は北半球では10月に最も強く、
太陽黒点数も大いに関係してくるという話です。
1917年も、1979年もこれらの条件がうまく揃ったとのこと。
20日の岩手山の初冠雪のニュースに前後して、
19日には太陽黒点数が136に急増とNASAの発表がありました。
そして月齢は1。今年の岩手山は白く光ったのでしょうか?
(10.21)


68
1998年10月の
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガン

(10.27)


69
<わたくしは森やのはらのこひびと>
一本木野を歩く賢治さんは楽しそうです。
森やのはらを恋する人は多いでしょうけれど、
かれらのこひびとになるのは難しいのでしょうね。
わたしにもそんな森がありましたが、
愛してもらえたかどうかはわかりません。
まだ16才で、鬱屈とした若さをぶつけていただけですから。
(10.30)


70
<天の邪鬼の小便の音>を聴こうと、
久し振りに(子供の時以来です)、
両手で耳を塞いだりあけたりしてみました。
カーカーココーコー、ジャーとは鳴りません。
西根山の滝の音もしなければ、天の邪鬼の小便の音もしません。
コンピュータがからかい半分にファンを回して、
ウービー、ウービー、シュワシュワビーと歌っているばかりでした。
(10.31)


71
The Beatles <Hey Jude>
Duke Jordan <Jordu>
Kenji Miyazawa <O Jado!>
(11.7)


72
「いきものよいきものよいきものよ
とくりかへし
西のうつろのひかる泣顔」


妙にこの歌が好きです。
大きく、ぼうようとして、それでせつない。
なにやら惑星系のブルース・エモーションのようなものを感じます。
(11.8)


73
いっしゃうけんめいやってきたといっても
ねごとみたいな
にごりさけみたいなことだ


賢治さんにしては意外な感慨に思えたこの詩句も、
いまではなるほどそうだったろうな、と感じます。
わたしなどにもぴったりの言葉なのですが、
なかにはこんな感慨を覚えないで済む人生もあるのでしょうか?
(12.12)


74
1923年12月26日、
イーハトヴ発ベーリング行の最大急行は白熊団に襲われ、
1998年12月26日、
モロッコ発ロサンゼルス行の無着陸世界一周熱気球は低気圧に襲われる。
(12.27)


75
なやみは/ただし。
なやみは/白くみゆ。

雪の大晦日です。
108の煩悩もゆっくりと融けていくのでしょう。
(12.31)



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青色文字の部分は、賢治作品(ちくま文庫・宮沢賢治全集)からの引用です。
てっぺんの文章は、「サガレンと八月」より。


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