ふうら草紙


草筆


翁草をある地方で「筆草」「山の筆」とも言うと、柳田国男の『野草雑記』にありました。花が終わって、これから銀髪にばらける前、なるほど翁草は筆そっくりの姿で立ちます。じっと見ている内に何か描いてみたくなりました。墨に浸すのは忍びませんでしたが、思い切って。

さて、どんな描き味なのか、ひと筆置くまでのあれこれ想像と、置いた途端のははぁーんの感想。墨を含んでしっとり潤うということもなく、穂先がバラバラに壊れてしまうこともなく、翁草は身を固くした体で、筆草の名誉に応えます。穂先はしっかり線をひき、細い軸もよく踏ん張り。柔らかい曲線は苦手としますが、立派な筆でした。

三枚の小品を楽しく描かせてもらって、最後は、手鞠花(テンマリバナ)の名もあるところから、手鞠風羅に登場願って「翁草一二三四五六七」。花のうつろいの中のほんの短い期間の筆姿、翁草に感謝して、記念の一本は今ふうら像の杖。

   (2000年5月13日)


翁草



翁草が庭に根付いて数年、最初は二輪、三輪だったものが、最後は五十輪ほどにも増えました。相性が良かったのでしょうか。さうした中の一本を翁草に頼んでわけてもらったのでした。昔からこどもの遊びに使われたと言いますし、いっときの形はほんとうに惚れ惚れするような筆姿で、ご丁寧にも墨に浸したように先っぽが黒ずみます。

筆草として親しまれ、遊ばれたことに敬意を払って描きましたが、常用の筆になるものではありません。その年大半をどなたかに掘り返されてしまい、翌年からは消えてしまいました。今の狭いアトリエでは鉢植えもなかなか根付きません。貴重な絵となりました。

   (2004年1月8日)



翁草


 「私はそれは二つの小さな変光星になつたと思ひます。」


宮沢賢治の「おきなぐさ」という童話では、翁草はうずのしゅげと呼ばれています。二輪の花が銀毛に変わって、最後は風に吹き飛ばされて、北の方へ飛んでいきます。そのとき、うずのしゅげの魂は天上に昇っていったとイーハトーブの詩人は語っています。



翁草


翁草


手鞠花とも筆草ともいう。


翁草


使用前の翁草です。まさに筆草。でもあれ以来機会がありません。




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