詩「木霊日」に登場する木は六本。その内、エノキ、サザンカ、キリが伐られて姿を消した。キリにいたっては切株も無い。残るはミズナラ、アベマキ、コブシ。足弱息弱となったいまでは、なかなか会いにも行けない。
この中で木筆を持っているのはコブシだけ。みんな欲しかったが、もう遅い。手の届くところに枯れた小枝があったので、「木霊日」代表としてもらった。
コブシが花を満開にした日に木々は歌った。空に向かって、魂魄がなって。その日一羽のアオジもまた歌った。あんなに小さな鳥が、こんなに高らかに……と木々が感動するくらい美しいフレーズを。なぜわかる? ぼくらにも
その歌を聴かせてくれたから。
アオジは青い鵐(シトド)。冬鳥で藪や草叢に潜んでツッとか細い声で鳴く。用心深い鳥だけれど、案外姿も見せてくれる。それでも渡去前の囀りは初めて聴いた。
小鳥がコブシに合わせて歌ったのなら……と、ふうらも。
マグノリア属は音楽の樹木。
それから、美学美術の樹木。
コブシは辛夷とも書き、木筆とも書く。漢名で辛夷はモクレンのことだから、木筆(モクヒツ)もモクレンの蕾を筆に見立てて言うとの意見もある。まあ、どちらでもよろしい。どちらもよろしい。今回は小枝をペンにさせてもらったが、いつか機会があれば、筆の形の方をと夢見ておく。