北条石仏の豆本2 4月24日 |
二月に豆本『はんが北条石仏』を入手、 今度は日本の古本屋検索で灯叢書の方を見つけた。 「百人一首/一人百首」と副題にあるように、 北条石仏を詠んだ二部構成の短歌集成である。 一人百首は、羅漢寺の先代住職で歌人の岸原廣明。 百人一首は、編集子が依頼した兵庫県下の歌人たち。 個人歌集の企画だったのが、他力を、 という岸原の要望で上のような形になった由。 さまざまな石仏が林立している風景に、 それぞれの短歌が林立しているのはよく似合う。 中から少し、紹介すると 女人像なす石仏の肩の辺に黄の蝶ひとつ動かずにおり 山下つや子 遠き世に誰れか目鼻を刻みたれば石はかなしげに夕光を負ふ 川田初子 外つ国の人の流離の姿にも似る北条の石仏の群 高芝郁夫 露しとど仏の目尻は濡れていてたがためにある泣きぼくろなる 平井三恭 夏草のそよぎて触るる石仏はかすかに胸に合掌を置く 初井しづ枝 五百人倶。皆是大阿羅漢歟。はたまた無慙常凡の徒歟。 阪口 保 逝く春の雨ゆかしめて羅漢寺の石の仏の眉のかげりよ 矢部茂太 こんなのもあった。 阿羅漢に似たりと言ひし正岡子規子規によく似し羅漢のありや 丸山修三 子規に似た羅漢がいるなら、訪れる楽しみもまた増える。 |
花の季節、羅漢憂鬱 5月3日 |
夕刻から羅漢寺。 連休とあって、人影もちらほら。 境内の椿いろいろは大体咲き終えたよう。 忙しそうなスズメが一羽、 麗しくさえずるカワラヒワが一羽。 石仏たちは、五月の光に爽やかに、 と思いきや、なんとなく冴えない表情の面々。 春(四月)は椿や桜だけではなく、 シラカシやアベマキの花の季節でもある。 それが枯れてかれらの頭や顔や体に降る。 なんとなくむず痒そうに思えるのはいいとして、 鼻に垂れて水洟のように見えるのは困るだろう。 なかには見事イヤリングにしてしまう人もいる。 |
梅雨の青羅漢、赤羅漢 6月29日 |
羅漢寺。 合歓と沙羅の花が咲いていますよ、と入口で教えられる。 共にらかんたちの頭上遥か高み。 もう天上と言っていいぐらいのところ……まさか、ね。 境内は妙に明け透けして締まらないな、と思っていたら、 東側奥の樹がみんな枝を払われてつんつるてん。 このところの空梅雨気味もあってか、 らかんたちは雨に洗われていない風で、どことなく憂鬱そう。 そんな梅雨時の青羅漢と赤羅漢。 梅雨の蝶も二種。 梅雨のきのこが一種。 梅雨の半月が一顆。 |
いずこの星の羅漢ぞ 9月22日 |
羅漢寺裏で、モズの高鳴き。 萩。 ギンミズヒキ。 ホタルガ一匹。 羅漢たちは境内が明るくなって、なにやら淡白に見える。 それとも隣の小学校の「ならのみ大運動会」が終わって、 ほっと一息ついているところだったか。 はるばる海を渡って来たかのような風貌の羅漢もいれば、 「あなたはいずこの星の人ぞ?」と言いたくなる羅漢も。 |
らかんは石だから 10月20日 |
境内はカラ類の混群で賑々しい。 午後の柔らかい陽射しと相まって、 らかんたちも楽しそう、嬉しそうに見える。 そのうち一羽のコゲラがらかんの頭に。 まさかコンコン啄かれたわけではあるまい。 これまでらかんの頭に乗ったのは、 スズメ、ヒヨドリ、カワラヒワ、ジョウビタキ。 らかんは石人だから大丈夫だろうが、 こんな風景はハッとする。 このヤマハゼは小鳥が植えていったものか。 |
ドラマ「北条の石仏」 11月1日 |
「北条の石仏」というTVドラマがあったらしい。 若杉慧の写真集が出た翌年、読売テレビ制作の1時間15分番組。 小泉勲演出、森川英太郎脚本、 出演者は江原真二郎、中村鴈治郎、吉田義夫、南原宏治、真智恵子等々…。 羅漢寺隣接のバラック校舎を卒業して、 羅漢と疎遠になった高校生の頃で見ていない。 石仏由来の謎を遠い昔に遡って調べてゆくフィクションらしい。 いったいどんな空想をしたものか、ちょっと見てみたい。 |
古木日和・古仏日和 12月29日 |
エノキの古木の冬姿に見惚れ、 センダンのま白い実のびっしりに驚き、 アオギリの微星を空に探して、 羅漢寺に着くと、 ヒサシブリー、とヒヨドリに叫ばれる。 昨日の雨と明日の雨の間、 穏やかに晴れ上がった一日に、 羅漢たちもほっと一息ついているようで、 どのひとも佇まいが柔らかい。 時折、ドングリが降る中を、 この日印象的な羅漢を撮影していて、 最後の方でカメラが壊れた。 光と影の表情はその時きりでショックだが、 気を取り直してスケッチを一枚。 |