北条石仏ノート


(2009年)


 羅漢と風羅と鳥羅と 1月4日


初詣。住吉神社。
年頭の獏の顔を拝む。
(初夢はピアノ・ライヴだった)
お神籤…大吉。

羅漢寺へ。
柔らかくいい声で鳴く鳥。
らかん一人一人の目鼻がいつになく明瞭。





定点観測ではないが、この人だけは毎回写真を記録。 以前より左頬の赤みが薄れてきたようだ。





境内の切り株で。
年輪を感じながら、松の目指したであろう天を望むふうら。





今季羅漢場逗留のシロハラ。
お神籤を結んである格子戸の上でゆったり。
鳥羅と言ってもいい風格だった。


 らかんかんなん 1月14日





とんどに行ったついでに、羅漢寺まで足を延ばす。
ちょっと確認したいことがあっただけなのだが、
夕日が射し込んでいい雰囲気だったので撮影も少し。





表情にも佇まいにも気品ある羅漢ふたり。
左は女性像だとも言われているひと。
右は古代的な愁いを感じさせるひと。
このふたりはいいカップルになるだろうと眺めて、
初めて中のひとの異変に気が付いた。
あれ?左と中の両人の写真を撮ったはずだ。
白い椿の下で困惑した顔を見せていたはずだ。


 羅漢寺生まれのスズメ 5月6日





新緑の羅漢寺。
高松山ではクロバイの花を識ったが、
ここでもヒメウツギ、ハクウンボクと白い花との出会いが続く。

スズメが一羽、西六列目の石仏たちの足元を
ちょんちょんちょんと、端から端まで渡っていった。
薬師堂の軒からは雛の声がしきりにする。

五月、
簡素な線の、
耳目楽しい羅漢たち。


 日食 7月22日


日食の羅漢寺。
塀に映る木漏れ日を撮りたいと思っていたが、生憎の曇り。
用意したピンホールも無効。
がっかりしていると住職が煤ガラスを貸して下さった。
ほんの偶に雲の薄い切れ目が来る。
最大食分(84%)前の、
濃いオレンジ色の三日月形の太陽。





皆既日食は1958年以来の体験。
小学生だったが、
最大食分時に急に気温が下がり、風が出たのをよく覚えている。

帰りにもう一度、
これは羅漢たちが見せてくれたのだと感謝した。


 羅漢と小雀 7月23日





雨の日々で苔むした羅漢が多い中で、
このひとは太陽のように橙色に輝く。
日食下に会うと、また不思議な感慨。

別の羅漢の頭に動作のおぼこいスズメが1羽、
つっと楓の葉隠れに移ったが、
境内で遊び馴れたふうに見える。
薬師堂の軒で鳴いていたヒナかもしれない。
天女(屋根の上)と獏(虹梁の木鼻)と
たくさんの羅漢がともだち。たいしたスズメだ。


 千灯会・画力前進 8月8日





羅漢場はローソクに彩られて、年に一度の賑わい。
風で消えるものが多く、二人のこどもが熱心に火を補っていた。





カップに書いたそれぞれの願いが、あかあかと揺らめく。
右端は「画力前進」。
この三つ、羅漢さんのどなたか、叶えてあげて下さい。


 小春日和、羅漢日和、団栗日和 11月6日





小春日の羅漢寺。
朝霧に濡れたらかんたちがようやく暖まって、
あちこちでほぉと溜息をつく音が聞こえるよう。

午前中に来ることは少ないので、東側から一人々々、
光と影の佇まいを拝ませていただく。

時々、ぽとん、ぽとんとドングリが落ちる。

西側に来て初めて、
いつも(午後)は影の中に佇む一列に光が当たっているのに気付く。
どなたも嬉しそう、では撮影をというタイミングで電池切れ。

チャッ、チャッ、とウグイスの茶化し。

小春日や……
笹鳴きや……

宗匠頭巾を被ったような羅漢さん、一句詠んでみよとおっしゃり顔。


 怖す也年暮るよとうしろから 太祇 12月29日





らかんは幾多の年を送ってきたのか。

どこか遠くのすぐを、
或いはすぐの遠くを見る眼。



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北条石仏