☆                      
   そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくて
          まるでカチカチの灼きをかけた鋼です。   ☆   
        そして星が一杯です。
          ☆                  


ihatovon note -1



青い毛布にくるまって、しきりに賢治のことを考えながら、
大きな象の頭のかたちをした、
丘の裾を、
せかせか
イーハトーヴの方へ急いで居りました。
(2.23)



「双子のお星さまは、どんな沓を履いているでしょう?」
不意にこたつの向こうから、クイズが飛んできました。
うーむと思案して、「水晶の沓」。ブーとブザーが鳴りました。
(2.24)



堅雪かんこ、凍み雪しんこ」の雪渡りは、
すきな方へどこまででもいくことが出来ます。
石川県野々市では「空歩き」と呼んだそうです。
友人の舞踏家が教えてくれました。
「Signalして空歩きとは!」という舞台もありました。
(2.25)



朝早い庭で、ヒヨドリが、
「美人がいぃー、美人がいいぃー」と叫んでいます。
「そんなら、どうして美人がいいの?」
ヒヨドリはだまってもじもじしていました。
「いつもへんな歌をうたうねぇ」とひやかすと
「しじゅう苦吟、しじゅう苦吟」と謙遜します。
「そうだろうか、その割にはいろんな歌があるねぇ。
 ぼくなんかまるで寡作だから、何か秘訣でもあるかい?」
「ゆぅっくりぃ、ゆぅっくりぃー」
なるほど、あせらないことが肝心のようです。

賢治さんは鳥の聞きなしの名人だったろうと思います。
ピカ一の耳で、雨風の歌やら草木の言葉やら、
自然界の音の聞きなし、翻訳は神品です。
(2.27)



ふと思い立って、理科年表(1998年版)を調べてみました。

  11月12月1月2月
月別平年気温  盛岡 5.60.5-2.5-1.5
 金沢 10.86.02.92.9
月別平年降水量 盛岡 91.970.959.455.0
 金沢 265.3305.4293.1195.2
月間日照時間  盛岡 119105126137
 金沢 99665674

イーハトーヴの冬は、はるかに厳しいと長年思っていました。
さすがに気温の差は約5度ありますが、これを見ていると、
金沢の冬がいかに暗くて鬱陶しいかがよくわかります。
冬4ヶ月間の快晴日数はともに4、曇日数は盛岡35、金沢72、
不照日数が14と24、雪日数が78と48、雷日数は盛岡0、金沢19。
賢治さんが冬もよく出歩いていたのがうなづけます。
(2.28)



青じろい骸骨星座のよあけがた、
寝床で半分眠ってはんぶん考えていますと、
バルコク、バララゲ、ブランド、ブランド、ブランド、
両手片脚あげてくるりくるり、
しきりに踊ってみせてくれる人影がありました。
(3.2)



雛祭り特別公演!
「春・ファンタジー」
水星少女歌劇団
音楽:金星楽団
幻想第四次劇場

星葉木の胞子が舞うプラットフォーム。
遠くにセニヨリタスの雪嶺。
ドラゴが飛び、ベーリング行XZ号の列車も走ります。
ギルダの独舞、ゴーシュの独奏も、見もの聴きものです。
(3.3)



(水仙月の四日メール、雛祭りメールをくださったNさんに)

わたしもいまだにグスコーブドリか、
グスコードブリかあやふやなんですよ。
ペンネンネンネンネン・ネネムも、
ネンが一つ抜けてしまったり、多かったり。
(3.4)



シャイニング・スモール・ストーンの島さん来庫。
コンピュータの前に案内して賢治軽便鉄道に乗り合わせます。
CYBERBUSTの歌曲ページで「ポラーノの広場」を聴き、
「宮沢賢治の宇宙」〜「賢治の事務所」〜「宮沢賢治の野原」、
最後は「やまなし」の旅でした。
(茶房「ゴーシュ」で「やまなし」の語りの会を準備中)
イーハトーヴ学会の会員でもある島さんは、
目下、油絵で「いてふの実」に取り組んでいらっしゃいます。
(3.5)


10
ラアメティングリ、カルラッカンノ、サンノ、サンノ、サンノ
balcoc.gif
ラアメティングリ、ラメッサンノ、カンノ、カンノ、カンノ

2日の暁方の夢をスケッチしてみました。
(3.7)


11
大の体操オンチだった賢治さんは、大の踊り好きです。
鹿踊りや鳥踊り。火山の舞踏、楢や柏の木たちのダンス。
狐や梟も踊れば、ばけものどもも踊り狂います。
詩「生徒諸君に寄せる」にはこんな一節もあります。
「すべての農業労働を・・・舞踊の範囲にまで高めよ。」
(3.10)


12
大の体操オンチだったわたしは、大の踊り嫌いでした。
山本萌さん・白榊ケイさんの暗黒舞踏、
レゲエのゆったりとしたダンスや、ナイジェリアのジュジュ・ダンス、
さまざまな鳥たちのディスプレイ・ダンス、
そして、イーハトーヴの森や野原で繰りひろげられる、
いくつもの、いくつもの、楽しくおかしいダンス・・・。
それらがいつの間にかわたしを踊り好きにさせました。
(3.12)


13
最近、セロニアス・ゴーシュ、とつい言い間違えてしまいます。
セロ弾きのモンク、とは言いませんが。
(3.14)


14
セロニアス・モンクの弾く「星めぐりの歌」が、
どこからか、ふっと聴こえてきます。
なんだかとても良さそうです。
こんな空想が大好きです。
(3.17)


15
おきなぐさの蕾がふつふつと膨らんできました。
今年は25以上あります。土が気に入ったのでしょうか。
三月の光も<青じろいやはり銀びろうど>のやさしさ。
(3.18)


16
賢治さんは、変光星を何か観察したことがあるのでしょうか。
肉眼でも見えるミラやアルゴル、白鳥座のχ(カイ)など。
(3.23)


17
18世紀に、耳も口も不自由な天文学者がいました。
けれど彼は、ずば抜けた頭脳と視力をもっていました。
古代から悪魔の星と呼ばれたアルゴルの正体をつきとめ、
宇宙の灯台−ケフェウス座δ星の変光を発見しました。
21歳で夭折した天才青年、ジョン・グッドリック。
彼もアルゴルも、なぜかイーハトーヴ的感慨を起こさせます。
(3.26)


18
なめとこ山周辺(毒が森山塊)には、10−12頭のクマが棲息。
朝日小学生新聞3月20日の記事にそうありました。
「昔はそのへんには熊がごちゃごちゃ居たさうだ」
(3.28)


19
「どうしても雪だよ、
おっかさん谷のこっち側だけ白くなってゐるんだもの。」

子熊が雪と見間違えたひきざくら(コブシ)の花。
今時分のなめとこ山は草木がわいわい、いいでしょうね。
(3.29)


20
二十世紀の末の
四月の気層のひかりの底
(4.6)


21
花祭。釈迦の誕生日。
76年前、
修羅のなみだが土に降った日。
甘茶と、雲の火花と。
(4.8)


22
「このからだそらのみぢんにちらばれ」
この感覚が好きです。とてもよく解ります。
わたしも塵に憧れていました。塵になることを夢見ていました。
一人の体で、一人の人間であることは、
(わたしがわたしであり、わたしでしかないことは)
ときに淋しく、ときに哀しく思えます。
「塵及美術の研究」
ああ、誰か同じことを感じた人がいたのだと、
古本屋の棚からうすぼんやりした背文字の本を引っぱり出すと、
エジプトの古代芸術についての本だったりしました。
(4.16)


23
「そして丁度星が砕けて散るときのやうにからだがばらばらになって
一本づつの銀毛はまっしろに光り、羽虫のやうに北の方へ飛んでいきました。」

「春と修羅」の呟きは、「おきなぐさ」の飛散にイメージがつながります。
「農民芸術概論綱要」では賢治さんは、こう呼びかけています。
「まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう」
(4.17)


24
1924(大正13)年4月20日「春と修羅」刊行。
手元にあるのは、1972(昭和47)年に出た近代文学館の復刻本。
いま初めて気が付いたのですが、扉には<心象スツケチ>とあります。
復刻本だけの誤植なんでしょうか、オリジナルもそうなんでしょうか。
74年前のこの日に出たのだと思うと、奥付の著者検印にも見入ってしまいます。
stamp.gif
(4.20)


25
日記を書かないで、野外でアクティヴにメモをとる・・・
丹念な記録よりも、生々しい断片、
「物の見えたる光、未だ心に消えざる中に云ひとむべし」(芭蕉)
賢治さんは、このものの光にこだわった人なのでしょう。
だからこその心象スケッチだったと思います。
(4.28)



note-2

青色文字の部分は、賢治作品(ちくま文庫・宮沢賢治全集)からの引用です。
てっぺんの文章は、「いてふの実」の冒頭部分です。


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