鴎外はこどもに寒山拾得の話をしたが、わたしはつれあいにこの伝説の人物譚をした。ある日、二人で山道を歩いていて、枯れ木の枝に一本の箒を見つけた。妙なところに、妙なもの。天狗は団扇だけでなく箒も使うのかと空想を逞しくしていると、「あれは拾得の箒」とつれあいが言う。「今日は、小春日和の、拾得日和」と歌うように言われれば、なるほど山気も柔らかく、木々の呼吸も深く聴こえた。
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寒山拾得相並んで一本の箒をいただいている
絵を描いたが、それを若い友人が見て、ビートルズのジョンとポールかと訊いた。なるほどマッシュルーム・カットで、ギターを持たせれば「Let it be」なんぞ歌うかもしれない、作者もそう思った。彼女に古代中国の瘋癲(ふうてん)二人を紹介するといたく気に入ったらしく、絵は彼女のアパートの部屋で、パンク・ロッカーのポスターと共に飾られることになった。
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六角文庫の外付けハードディスクは、パーティションを二つにきって、それぞれ名称を寒山・拾得としてある。深い理由はない。対の名前を探して、最初昴(スバル)・畢(ヒアデス)としたらすぐにエラー、フォーマットし直した際に改名した。システムやアプリケーションを寒山に管理してもらい、拾得にはデータのバックアップをお願いした。が、これは逆だったかもしれない。飯炊きの上手な拾得にはシステムを、拾得に食わせてもらって詩を書いているだけの寒山にはデータを、というのが本筋だったように思える。文殊普賢の化身のお二人にさすがクラッシュはないが、無碍(むげ)な拾得さんはファイルのアイコンを自在に描き換えて下さる。
――文庫草誌より