星の砂漠


画・星の砂漠


 ふうらが旅しているこの場所に見覚えのある方は多いと思います。
 「この世の中で一ばん美しくって、一ばんかなしい景色です。」
 そう、ここは星の王子さまが、この地球の上にすがたを見せて、それからまた、すがたを消したところなのです。
 作者のサン=テグジュペリは、本の最後のページでこの景色をもう一度紹介してくれています。そこには、こんなことが書いてあります。

 「もし、あなたがたが、いつかアフリカの砂漠を旅行なさるようなことがあったら、すぐ、ここだな、とわかるように、この景色をよく見ておいてください。そして、もし、このところを、お通りになるようでしたら、おねがいですから、おいそぎにならないでください。そして、この星が、ちょうど、あなたがたの頭の上にくるときを、おまちください。そのとき、子どもが、あなたがたのそばにきて、笑って、金色の髪をしていて、なにをきいても、だまりこくっているようでしたら、あなたがたは、ああ、この人だな、と、たしかにお察しがつくでしょう。そうしたら、どうぞ、こんなかなしみにしずんでいるぼくをなぐさめてください。王子さまがもどってきた、と、一刻も早く手紙をかいてください……」(岩波少年文庫「星の王子さま」内藤濯訳)

 サン=テグジュペリの愛する「一ばん美しくって、一ばんかなしい景色」を、ふうらは旅しました。金髪の無口な子どもが笑っていたかどうかはわかりません。仮に王子さまに逢ったとしても、かなしみにしずんでいたはずの人に、もう手紙は届きません。その人は、あのあと、どこかの深い海の底に沈んで戻ってこないというのですから。
 小惑星B-612の王子さまに逢えなくたって、飛行服で海の底にいる人に手紙を書けなくたって、あの景色が美しいことに変わりはありません。

 サン・テグジュペリの没後50周年にあたる1994年の冬に、ふっと「星の王子さま」を読み返してみました。そして、あの景色が目に焼きついたのでした。1月に一人のふうらが旅立ってゆきました。7月になって、もう一人が旅立ちました。王子さまに逢うのが目的ではありません。あの景色の、ほんとうの美しさとかなしみに佇つため……もっとも、これも単なるわたしの願いにすぎません。ふうらは旅の途中に偶々さしかかった……ただそんな絵であってもいいのです。

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