詩集 北国のタンゴ


 月の暈



そうだったな
よく晴れて
蝶が
蝶の道を辿っていて
しらと
月も中天に透けていた

・・・・・・

男と女は
部屋にいて
豆腐一丁
皿に乗っていた

  ぼぉたぁん
ころころと
笑いを零して
女はギターを爪弾く
  しゃくやくぅ
  やましゃくやくぅ

花の名を
詠み上げては
ジャカジャカと
ギターをかき鳴らし
  おぉれん
  みやまおぉれん

キンポウゲ科という歌だそうだ

ころころと
女の零す笑いを
盃に注ぎ
男は豆腐を食べている

 ○

夜が更けたら
豆電球
男女一組
ベッドに乗っていて

今夜は「6番」
烏丸線
  まるたまち
  でみず
  いまでがわ
男は静かに
停留所の名を継いでいく

  右がどうししゃ
  左が「わびすけ」

コトコトと
夜毎に路線を変えて
女は
遠い街の
市電に乗って眠りゆく

  ぎおん
  ちおんいんまえ
  ひがしやまさんじょう

・・・・・・

そうだったな
ぽかりと浮かんだ
雲の日々
月は
月の道を辿っていて
大きな暈も持っていた

(c) kotaro izui 2001

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