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ふくろう豆事典(11)

別院の森の梟は驚いたといった。−−梟(かれ)は年久く此の常願寺の森に住んで、夜な夜な居廻を求猟(あさ)って歩くが、今夜も塀の上の、繁った樫の枝に灰色の姿を顕し、近来人魂が出るといふ風説(うわさ)の高い、新井の火葬場の方へ出掛けようか、狐の穴のある深谷のあたりへ参らうか、おもかげ橋の幽霊榎へ行って見ようか、猿丸の夫婦杉を久々で見舞はうか、畜生! 権現堂の塒(ねぐら)を掻廻して呉れようかと、いたづらな思案をする腹を膨らまして、葉越十六夜の月明りに、廣々として薄墨で描いたやうな、早苗田の緑、向の山、稲荷の森などを睨んで居た。
−泉鏡花「梟物語」