ピアニスト―猩猩袴筆


ピアニスト―猩猩袴筆



かなしいね、かなしいねってからからの缶詰につめこむピアニスト

  ―笹井宏之「てんとろり」



かなしみを詰め込んだピアノの缶詰―そういうアルバムならいっぱいいいのがありそうだ。

この歌はまた新美南吉の童話「デンデンムシノ カナシミ」を思い出させる。かなしみのいっぱいつまった殻を背負って、一匹のデンデンムシがともだちを訪ねてまわる。じぶんはなんて不幸なんだと嘆いていたが、みんな背中にかなしみを負っていた。
「カナシミハ ダレデモ モツテ ヰルノダ。ワタシバカリデハ ナイノダ。ワタシハ ワタシノ カナシミヲ コラヘテ イカナキヤ ナラナイ」

かたつむりに比べれば、この歌はかなしみに主体的で、どこやら軽快でもある。ピアニストとかたつむりに共通するのは、どちらのかなしみも透きとおっていて、愛しいということ。




草人艸墨展入口ピアノを弾くひと