ピアニスト―待宵草筆


ピアニスト―待宵草筆



しなやかなる手にふるゝピアノ
おぼろに染まる薄薔薇色うすばらいろゆうべに輝く。
かすかなる翼のひゞき力なくしてこころよ
すたれし歌の一節ひとふし
たゆたひつゝも恐る恐る
美しき人の移香うつりがこめし化粧の にさまよふ。

あゝゆるやかに我身をゆする眠りの歌、
このやさしき唄のふし、何をか我に思へとや。
一節ごとに繰返す聞えぬ程の REFRAINルフラン
何をかわれに求むるよ。聴かんとすれば聴く間もなく
その歌声は小庭こにわのかたに消えて行く、
細目にあけし窓のすきより。


  ―ポール・ヴェルレーヌ「ぴあの」永井荷風訳




草人艸墨展入口ピアノを弾くひと