泉井小太郎 春と石仏[TOP][表紙][目次][前頁][次頁]
あとがき
珍しく三月に雪が降った。春の雪を頭に乗せた羅漢たちが目に浮かんだ。開門の九時にはだいぶ融けているだろうが、羅漢寺に出かけた。
八年振りに詩を書き出して十八日目、東日本大震災が起きて七日目、石仏たちは寒い春の、静かな午前に佇んでいた。
清らかな合掌の手が目に止まる。境内には三界万霊塔もある。慶長十五年の銘、何かの大災害の慰霊塔であるらしい。石仏もまた謎の中に、災害か、戦禍か、弾圧かとさまざまに憶測されている。数百年、祈りに組み合わされた手。合掌羅漢を一人一人巡っていった。カメラに収めた中から二十人を選んで、アルバムにまとめ、インターネットに公開した。
そのあと「羅漢寺に行く」と十行ほどの詩句を綴った。宛もなく始めて、どこへ行くのか。書き継いでいた「春とピアノ」に収斂されるのか、別の詩に進むのか。結局どちらへも延びて、こちらは石仏詩群となった。姉妹編の趣もあるので「春と石仏」と題した。
二〇一一年 春 泉井小太郎