詩集 幼虫時代

  泉井小太郎


 1996年から1998年までの作品。
 三つの小詩集から構成されています。

  ・故園蕪村に遊ぶ  8篇
 蕪村の句にトライした変奏曲セッション。

  ・幼虫時代    22篇
 さまざまな風合の詩篇が集まっています。

  ・あじさい日詩  30篇
 ブックソフトに直接綴った六月の日詩。

幼虫が〈深い森ゆく蝶〉になれればと、
蝶のシルエットを表紙にもってきました。



オンデマンド印刷による紙本です。



10inch版
160ページ
2022年6月3日発行
2200円

*(直接お申し込み下されば現在1800円+送料でおわけします)*


ご希望の方はBCCKS 六角書林
または下記アドレスに直接お申し込み下さい。

◆スパム対策の為に画像になっています。
お手数ですが直接入力お願いいたします。




【収録詩篇】


 山彦


誰かがわたしを吐いた
遠い山のてっぺんで
鬼か
天狗か
山姥か
だからわたしは風に乗り
木々を渡って
谷を駆け
兎の耳を驚かせ
麓の牛を寒がらせ
けれどわたしも惑いつつ
南はどこか
東は北は
わたしは誰か
いつまでゆくか
わたしはわたしをこだまして
春の夕べを
世紀の暮を
あちこち
をちこちするばかり

「山彦の南はいづち春の暮」 蕪村




 孤島


孤島はいつも帰ってくる。
雨降る、真夜中、
腹を空かせて、
愚痴をこぼして。

どこをどう、
ほっつき回っていたのか?
(放浪とか、
 漂流とか、
 回遊とかいう言葉が、
 カレの好みなんだが)
海垢によごれ、
大気によごれ、
ふかや、
潮にこづかれて、
またひとまわり小さくなったか。

 まあ、乗れ。
と孤島は言う。

淋しい草地と、
わずかな潅木。
えくぼのような水たまりが一つある。
 
さあ、
どうしようか?
孤島に乗れば、
ぼくはこれから、
開くのか、閉ざすのか?

 空ははろばろ、
 海はひろびろ、
 さあ、
 一緒に、
 遠く、
 深く、
 巡ろうではないか。

孤島と何度出かけたことか。
星降る、真夜中。
腹を空かせて、
鼻歌混じりで。




 あじさい日詩


 16

夜の蟻が
なぜか二階の書斎の
「鬼の研究」という
文庫本の上で
やるせなく
そう見えただけなのだが
ひとり
黒い尻から黒い針を突き出している


 22

インク壷につまった
まだ書かれない文字の群
そんなものを
ぼんやり読んでみようとしたりして
この夜がある


 28

精神も進化する
宇宙も進化する
にんげんを考えるのは
むずかしい
ずっと先の
にんげんのこともあるからね






書架へ戻る


六角文庫 プレセペ

Powered by BiB/i