詩集 天狗の礫

  泉井小太郎


 1984 - 1988
 詩にとっては最も寡黙な五年間。
 この期間に俳句に手を染め、
 ふうらかんの絵や陶像も始まりました。

 「白墨記」という年々の雪の記録、
 「失語祭」という漠々たる詩空間、
 天狗に礫を打たれ、
 獏に夢を食われて、
 原ふうらのカタコトとした放浪。

 



オンデマンド印刷による紙本です。



10inch版
160ページ
2024年1月20日発行
2200円


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【収録詩篇】


 白墨記 3


  雪舞


呵々々

雪一笑の間に

土方巽逝く

軒端の
氷柱の中に
ひとある光のきららとあって

午前0時

降り止んで雪三寸の白きのみ


  雪話


つらら姫

つらら王

寒月に妖しく

寒雷に神々しく

さて
つらら童子が
生まれたかもしれぬ




 失語祭 七月


魚、
曇天を呑む

 ☓

腸濁々

 ☓

一木
流れ来て

肢体露わに

 ☓

月は欺く

恋成らず

 ☓

フト
秒針の止む

──を見る

 ☓

終日白語ス

 ☓

肝っ玉より
膝小僧の小ささよ!

 ☓

梅雨時の
魚の不眠も

惨憺たる──

 ☓

花よ、痴れ!

 ☓
欠伸して
何やら逃がす

一生の
あるいは不覚を
深々と吸い込んで

 ☓

魚、曇天を呑む

──と魚の申す

 ☓

謝々

蕪々村々

旅半バ

 ☓

誰か遺書の達筆を封じ込め

 ☓

ソコニ
獏ガ居テ

眠リモセヌニ
我ガ夢ヲ
奪ワレタノダ

 ☓

半日白語ス

 ☓

梔子ビリー・ホリデイ

耳今夜
四半世紀ヲ巻キ

 ☓

蜩から
蜩へ

 ☓

ながれる踝

 ☓

犀川ノ夢曙ニゴリ濁ル




 三月草紙


  初虹


鶉野の
鶉湖
その
卵野の
卵湖

人佇って、虹半円也

三月
夢野の
夢湖






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