ジャイアンツ・オブ・ジャズ



   ―1971.10 京都 



ステージには
ガレスピーだかギレスピィだか、
伝説のバップの神様。
トランペットの朝顔を中空に向けて、
ラッパの
バップの
立派な音符。


これがジャズ
本物のビート、
口を開けたり閉めたり
ジャズの伝道師、
アート・ブレイキーのスティックが踊る。
ここどこ
そこどこ。


一九七一年の神無月。
京都の夜に五人の男。


ベースは巨人の、アル・マッキボン。
大きな手に
大きな呼吸。
うん
どん
(日本で聴くと)
こん
いい演奏を、いい生涯を。


ぼんやり突っ立ちぼんやり伸びる、
トロンボーンとカイ・ウィンディング。
腕のV字を広げて狭めて、
ぼうぼう
(漢字で書けば)
茫々
夢々
遠くまで音は放浪してゆく。


さて、
最後に現れたのが
伝説のバップの高僧、
セロニアス・スフィア・モンク。
音は少なく
古今一音
大事に聴いて、
遠近一音
深く噛みしめて。


ところで
ジャイアンツ・オブ・ジャズは
もともと六人、セプテットの予定。
一人来なかったのが、
麻薬嫌疑のソニー・スティット。
アルト・サックスの代わりに
テナー・サックスの松本英彦が入った。


演奏は進むが、
バンドとしてはまとまらない。
ガレスピー
ブレイキー
モンク
それぞれの曲を採り上げて、
それぞれにたっぷりソロをとらせる。


ラウンド・ミッドナイトで
モンクの世界がやって来た。
モンクは独りモンクス・ムード。
あとは全員ジャイアンツ・ムード。


この日モンクは体調不良そうで、
踊ることもなく、
ある曲の途中で立ち上がって、
そのまま袖に引っ込んでしまった。
それを道化た仕草で見送って、
ガレスピーがピアノの椅子に座り、
ポコッ、ペコッ、
二音三音真似して笑わせた。


失礼で茶目っ気なガレスピーは
モンクの留守のまま、
小粋なバラード演奏をした。
天井に向いて咲いていた朝顔、
袖に消えていったモンクの後ろ姿、
音はとっくに忘れてしまったが、
この二つの光景だけはいまでも鮮明だ。

   (2013)








ディジー・ガレスビー


アート・ブレイキー


アル・マッキボン


カイ・ウィンディング


セロニアス・モンク



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