石に眠るひと

    ――立冬上人、または小春和尚に


石に眠るそのひと
犀川上流の
魚止だったか
駒帰だったか
それとも熊走だったか
大きく曲がる河原で邂逅した

といっても
幾多の石に紛れて
そのひとはもう眠りの最中
柔らかな秋の終わりを見届けて
長い冬眠生活に入ったばかり

その日、紅葉の髪をして
女が一人、河原で踊った
白い化粧の
雪の化性の

女の裸足は
水を渉り、石を踏み
立冬の青空に
小禽は飛び、枯葉は舞った

魚も馬もここから先は行かない
戻るか石に籠もるか

立冬上人石

そのひとの
あごひげ
かたあて
ゆるやかなひざ
こんなに見事に籠もれば
完璧な化石のように眠れば
もう冬眠は
解けないのではないか

(四半世紀経った
 立春の雪の日も
 石はそのひとをこもらせ
 そのひとは石をねむらせ)
 

(c) kotaro izui


貘祭書屋詩画