雲


十一月の午後

空に

獅子
河童の昼寝雲

光り麗らに
山川はあり


天狗

やがて

蠍は鯉に
鯉から龍に
獅子は麒麟に
河童は天狗に

少し離れて
蟹は蟹のまま


蟹

ゆく秋の
ゆく神獣たち

やがて

麒麟は貘に

北東の空に
彼らは集い
ゆうゆう
日本海を目指す


なんたる雲の
なんたる貘の
昼寝の天狗の

日はやや傾いて
さらに
一羽の鳳凰
翼を高く振り上げて
一団の彼らを追っていった



 1988.11.4

大空劇場


 雲の形は面白い。イルカやクジラやコウモリや、いろんな造形がある。和歌の散らし書きのような一団を見たこともあれば、「夢」の一字を山際の夕焼け雲に読んだこともある。
 この詩の情景は秋。北国には珍しくよく晴れて、うらうらと河原を散歩。ふと見上げれば、空に幾つかの雲の塊。それぞれ蠍、河童、獅子、蟹に似て、稀な一団を構成していた。雲の形はゆっくりと変形し、天狗やら麒麟やら龍やらに。うれしいことに貘までもいて、ずっと離れた後からは鳳凰が慌てたように飛んでいた。
 空に浮かぶ雲がみんな何かに見えた――というのは、さすがに初めてのこと。こんな豪華な競演を見逃す手はないので、とりあえずその場でスケッチ。帰ってから一篇の詩に綴った。他愛ない内容なので、貘のことばかりを集めた作品集にでも挿入するつもりで放って置いたが、ふっと単独のポエムレットにしてみようとの遊び心が湧いた。
 スケッチはラフで、白地のノートの見開きに跨ったものもあるため、今回コンピュータで再描画。半日マウスを細かく動かして肩痛に見舞われたが、なんとか浮雲一片ぷかぷかの小冊子にはなったろうか。長らく忘れていたが、十二年前の秋の午後の、あの神獣・幻鳥たちが懐かしい。

貘祭書屋詩画