詩集 雨羅

 雪の譜



朱の原に
雪、
降りしきる
白、
濁々の
1977年
朔の念いに
雪、
降りしきる
鐘の
寺町
乱、と
明け
乱、と
埋ずもれる
扉をあけて
雪、
降りしきる
極楽寺
雪、
掻き分け
雪、
割って
頭もたげる
妻と私に
雪、
降りしきる

 ★

街は、亀の子。甲羅丸めて、うずくまり
ただ
雪の、累々
白、暗々

人も、車も通らない。木の一本、電線の
一本も消えて、幻燈の世界に踏み込んだ
かの如く、
大音量の、シーン

圧せよ
圧せよ
圧せよ

雪の粉を蹴たてて、進む。ずんずん進む

やがて、雪も毛皮のように、あつく
(はあはあ)
白い巨獣の、二匹の子の、私たち・・・

 ★

さらに、あつい巨獣の、胎に潜る。
雪の
類々
音、
降りしきる
<ヨーク>片町

朱の原で
つづみうつ
私の似黒
あかい
タムタム
私の一〇八の
心臓をめぐって
つづみうつ手の
手繰るジャズ
私の綴りを
つづって
タムタムの
蛇行
タムタムの
蛇行の
ゆく方を見る

<目の裏>元年・朔の念いに、再び
雪、
降りしきる
音、
降りしきる

 ★

雪の
黒白、未明の神社に、賽も投げられ
(第七番−凶)

他に
参詣の人無く、柏手の音無く、燈明
異様に明るく、
巫女の咳、七、八つ

(旅行、悪しく)
(学問、難く)

雪の
バップに猛る、降る声になお、色事

INGとなって

方位は北に、さらに<目の裏>深く
とん、と
踏み出すそのひと足に、ザン、その
ひと足に、
雪の、ザン


 ★

雪の
乱々
六勝も一つに濁る、妄、と白文字
舞いあがり、(日輪は何処?)

妄、と
立ち尽くす、妻と私に
雪、
雪、
雪、の
兼六園、乱、と
崩れる、木の一本、膝の一本も
音無く

(日本武尊の像、ふるえわたる)

(白い巨獣の、)
(雪の女郎の、)
(ヘロイン中毒)
(コカイン中毒)

雪の
乱々
白・混沌に、<目の裏>新年の
明け烏、不意の
一羽
十数羽、鳴き騒ぎ・・・

雪、
降りしきり
雪の、類々
降りしきる中
白、墨

佇つ




(c) kotaro izui 1977