詩集 雨羅

 いろは双紙 1



雨を腕で囲む
そこに九月十月の沼があり
いっそう古びる木の年齢がある

夜になると
一匹の紙魚が浮かび出て
この六年のあなたと私の
あること・ないこと
すべて月にあぶりだしてしまうのだ


水垢のついた
放浪譚ようのもの・恋愛譚ようのもの
  伏せ字が多いね
  ずいぶん秘文字があるね

天候がかわったら
まっさきに風を一本貰ってこよう
古いのでよかったら
こっそり郷里へ帰って
日溜りのふたつかみっつも借りてくる



(c) kotaro izui 1978