詩集 夢と天然


 幽霊の幽子さん



 1

幽子さん
月は
すらりと痩せて
夜明けの色に
薄れていきました

夢の中にも
空はあるのです

いつ頃の
どこの空が
広がっているのか
ちょっと分かりませんが

それにしても
影もなく
音もなく
あなたはじつに
懐かしくあらわれた

 2

まあ
おかけなさい

といっても
いまのところ
ぼくには姿は見えません

なにが懐かしいのかも
さて
いっこうに

ぼんやりしていて
要領を得ませんが
幽霊の
幽子さん
夢の中などに
出て来たりするものだから

 3

お初に
お目にかかるのですよね

こんな
散らかした夢で
恐縮です

さきほどまでは
なにやら
追いつ追われつの
サスペンス・モードで
そうかと思うと
赤いジャガイモのような
小惑星とすれ違ったりして

そのときは
もういらっしゃいましたか?

 4

ところで
どなたが
教えてくれたのでしょうね
幽霊の
幽子さんが居ると

あなたご自身が
テレパシーで
伝えて下さったのかな

ご覧のように
夢の中では
さんざんなありさまです

落ち着いて話も出来ませんから
どうでしょう
夢の外で
というわけには
いきませんよね

 5

そうそう
朗読をするのでした
ホールを探して
ポエトリー・バンドという
アナウンスがあって
慌てていたのでした

ちょくちょく
ライヴがあるのですよ

もっとも
原稿を紛失したり
会場に辿り着けなかったりで
実際に
詩を詠んだことはありません

毎度
面目ないことです

 6

そう言えば
夢の昔に
こんな詩集を出しました

『近くの幽霊』

作者の癖に
どんな詩が収まっているのか
皆目見当がつきません

もしかして
幽子さんは
そこからいらっしゃった?

それなら
こよなき懐かしさも
ゆえあることになります

 7

まあ
深く考えないで
詮索もなしにしましょう

夢の縁です

奇にして
妙なるものです

あなたは
じつにもの静かで
目覚めの前のひとときを
とても和らげます

お会いできてよかった

さよなら
幽霊の
幽子さん

(c) kotaro izui 2002

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