詩集 夢と天然


 河鴉



まっすぐやって来て
鳥は石の上に止まる
ずんぐり黒褐色の
カワガラスである
しばらく尾を振っていたが
やがて水に飛び込んだ

水は柔らかく
水を柔らかく
カワガラスは巧みに泳ぐ

すぐそばの流木に
もう一羽やって来て
おなじく水を縫った
仲睦まじい番いには
もう雛もいるのであろうか

 ○

ひと頃
青年とよく会った
わたしは河原で
無為を持て余し
鳥虫草木に慰んでいた

コサギやアオサギ
とぷんと潜って
ひょんなところに現れる
カイツブリ

青年のようには
上流下流と
駆けずり回らなかったが
そんな鳥たちが
ずぼらな眼にも楽しかった

 ○

鳥が好きなのだと
鳥を研究しているのだと
かってに決めつけていた

けれど青年は
一羽の鳥を探していた
なんの鳥かは
最後まで言わなかったが
傷心の日々を
救けられたのだと

もう一度会って
どうするのかと訊くと
恩返しに
婿入りでもしましょうか
笑って答えたが
あれから
青年の姿を見ていない

(c) kotaro izui 2001

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