詩集 夢と天然
河鴉
まっすぐやって来て
鳥は石の上に止まる
ずんぐり黒褐色の
カワガラスである
しばらく尾を振っていたが
やがて水に飛び込んだ
水は柔らかく
水を柔らかく
カワガラスは巧みに泳ぐ
すぐそばの流木に
もう一羽やって来て
おなじく水を縫った
仲睦まじい番いには
もう雛もいるのであろうか
○
ひと頃
青年とよく会った
わたしは河原で
無為を持て余し
鳥虫草木に慰んでいた
コサギやアオサギ
とぷんと潜って
ひょんなところに現れる
カイツブリ
青年のようには
上流下流と
駆けずり回らなかったが
そんな鳥たちが
ずぼらな眼にも楽しかった
○
鳥が好きなのだと
鳥を研究しているのだと
かってに決めつけていた
けれど青年は
一羽の鳥を探していた
なんの鳥かは
最後まで言わなかったが
傷心の日々を
救けられたのだと
もう一度会って
どうするのかと訊くと
恩返しに
婿入りでもしましょうか
笑って答えたが
あれから
青年の姿を見ていない
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