詩集 弦想

 <目の裏>分町・三人部落・秋



かつて
<目の裏>分町と、と呼ばれた
水の薄い
一区画、その
三人部落に、私はいま立っている

 ★

ここに
廃バスを、二段
重ねたような家があって
・・・(そう
    あったのだ、確かに)
乗客が、三人
のらり、と
旅していたような、暮していたような

マサルと
マツコと
ホクトと

(そんな名前はともかく)

蠕動し

p、b、dする
川の字の
乱筆ぶりに惹かれ・・・

・・・・・・・・・・・

いつ、発ったのか
あたりに
排気ガスのぬくもりもまだあって

耳が、ガラガラ

不意に
電気ベースの子守唄も湧くような

気配の、一瓶

酒瓶一本ぶら下げてやって来たのだ

呑気が
呆気の
しばらく
、であった

 ★

九月・十月
この地で云う、蛇腹の季節

例年、風炎症の
誰かと
一本の吊り橋を争い・・・

私はまだ、こうして残っている



(c) kotaro izui 1979