詩集 弦想

 弦想 ―Meditation for Charles Mingus



鳥から始まる
六斗林も、今日
クンビアのムードで

ひわが啼く
むくが啼く
くろい羽根着て
女も踊る、卵を渡る
北から
南へ
弦が一本
涙腺が一本
めい想し
めい想して針金をペンチで切る

さあ、またここから
ここから
立って始めるのだ
のどの
カラカラに
ヒタキが啼く
風が炎えて、山は裾を乱して
あついあつい
一月、フェーンの夜
「水ハホントニ呉レタンネ、水ハ
 ホントニ呉レタンネ・・・・・」

 ・

鳥から
日食あたりにいる
鳥以前の鳥から始まる

森には

猿人
それに
幽霊もいる
みんな
みっつか、よっつの
おもいに、混
、沌として
言い出しかねて
言い出しかねて
・・・・・・・
(狂女が、ひとり
 卵を、つぶす
 コードを、かえて
 きいろく、汚れて
 狂女が、ふたり
 卵を、つぶして
 蛾の、ダンス
 水曜の、夜に
 衣を、脱いで
 狂女の、群れが
 卵を、つぶして回って)
・・・・・・・
雨、風が
雑って、笑う
みんな
きいろく
コードをかえて
胸の
あま・からに
三つか、四つの
天候も混じる
鉦や
太鼓で
ぶんぶん
ピッチをあげて
木が
耳が
鳴る、破(わ)らう
モンドウする
「テッペンカケタカ」
「ホッチョンカケタカ」

 ・

弦が一本
ドコカラ、ドコヘ
向かうのか
涙腺が一本、性腺が一本
めい想し
めい想して、針金をペンチで切る

死ンダ者ノコトナド
知ラナイ
水モ
飴モ
モウ、売リ買イハシナイ
羽根ナドナクテモ
足ナドキカナクテモ
ナニカハ
ジャングルノヨウニマデスイングスル



ここから
ふかい霧
ふかい黄砂の
日々
猿人がひとり立ちすくんでいる
サイの河原で
蛾のふるえるような声で、泣いている
爪と
指の腹を
じっと眺めて
何かを、痛切に
もどかしがっている

石ナド積ムナ
三十歳ダ
鳥以前
猿人以前カラ始メル
「立ッテ歩クカラ
 背中ガ痛イ」

日増しに
膨らんでいくものがある
背や
蹠にあるものが重い
今日
六斗林も肥大する
百々女木(どどめき)も肥大して、激しく沈黙する
ふかい霧
ふかい黄砂
<任意ノダレカヘ>なんて
ドコヲ、ドウ
向かえばいいのか
めくらみちで
あいは牙を剥き
すばやく怒りに、うらっ返る

 ・

ココモ、クンビア
火山ト
地震ノクニ
カラダガフルエテ、アツイ
眠ッテイルモノナド
アリヨウガナイ
ミンナ
吃水線上デ
ブルブル、ワナナク
巨大ナ蛾
原因不明ニ
肥満シタ
ジャングル船

死ンダ者ノ
灰ナドカブラナイ
「私ダッテ、スデニ
 キイロインダ」

ボツン、
ボツンと
火を、噴き
弦が一本
えんえんとめぐる
涙腺が一本、性腺が一本
めい想し
めい想して針金をペンチで切る


  この詩はチャールス・ミンガス追悼で作ったもので、
  彼の作曲・演奏曲名や言葉などを随所で応用しています。




(c) kotaro izui 1979