詩集 弦想

 マリカ #1





日溜りを丸めて
どこに蔵い込んだか
この冬
彼女は浮かぬ顔をして
休日は
もっぱら
林檎のシンでふるえている
雪も
ピアノも降らぬ
耳線をのばして
乳の輪をひろげてみても
ボツン、
ボツンと
果実の種様のものが
たまさか
屋根を叩くだけ





部屋の中で
蒲団田の
霜踏みをする
眠った男の
薄い氷板を砕ってみる
あしうらに
稲の切株の
ジグ音
ザグ音を
蘇らせて
なんとかひとりで
火照ってみる





遠イ話ダ
春モ
ウノ山河モ
紙ヤ、衣ヤ
列島ノ
裏ヲメグッテ
ハクダク
ロクショウ
彼女ノ
オウニノ田ニ
イクツカ
ホクロモ増エタ





この街では
くるくる天気が変わる
雲が速くて
黒いドラムが
不意に鳴る
(泣ク子モ
 黙ル
 鬼ガ
 今泣キ
 モウハヤ
 笑ウ)
不意に彼女は
バドや
バードの声に飢える
とりわけ
激しい雷鳴の中を
笑いながら死んでいった
35歳の男の
ボロボロな笑い声に
飢える



(c) kotaro izui 1979