詩集 弦想

 六月



    ―テイク1


   卯の花を
  腐して走る
  列車がある
  。
   鳥も靴も
 出かけたまま
 帰ってこない
 夕がある。
      もう
    十三年の
    枯井戸が
    ある。

 ・・・・・

 ことさらの六月
 ではない、
      ただ
 水は妙に白墨と
 して、
    駅のホー
 ムや河原一帯は
 かるい猩紅熱に
 でも罹っている
 かのようだ。

 (舌がよくまわ
 らない、
     耳朶が
 ふくれあがって
 くる)



(c) kotaro izui 1979