詩集 オリオンの扉


 北斗・疑問符



大いなる疑問符がある。

二月の寒空に突っ立つ、
山嶽と、
私と、
樹木たち。

迷うのは人間独りか?
かくあることに堪えきれず、凍った叫びを星闇に放つのは、
私だけか?
医王も高三郎もしんとして、
欅も檜も声を上げぬ。
つくつくと雪間を割って出たものの芽たちも、
幼く夜に突っ立ち、黙したまま。

なぜ?
なぜなのか?
万物あるごとく、万感湧くごとくにしてなお、
万象の数だけの問いがうまれて止まないのは?

木は問うか?
山は問うか?
万芽は叫ぶか?
医王は癒しもしてくれず、
檜も明日へ繋げてくれぬ。
まことにこの潔いさびしさを、川一本が走る音のみ。

泣け。
喚け。
問え。
みんなそのように発光しているのだと。
ひとたび運動エネルギーをあたえられたものは、もう、
みんなそうなのだから、こころぞんぶん迷いを尽くせ。
と。
有機・無機の隔てもなく、過去現在未来の亀裂もなく、
畢竟、われらの生死前後を超えて、もろともに進化変動
してきた姿のそれぞれひとりびとり、山や岩や草や木や
虫や人や星であるのだから、またもろともに遥かな流れ
となって光年を積んでゆこう。泣こう。問おう。
と。
星が瞬いたのか? 川が囁いたのか?
それともどこかで修羅のあの人が遠くへ語ったのか?

山河も蠢く。
山河やさしく、
山河かなしく、
山河せつなく、
山河くるしく。

二月の寒空に、
山河と在って、
幼い、
人の、
私。

つくつくと萌え立って沸騰する問いの数々。

奈良岳。
大門山。
奥三方山。

北の空には、いま昇りつめた北斗の、大いなる疑問符が、
突っ立っている。

(c) kotaro izui 1994

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