詩集 オリオンの扉

 寒桜 ―美術の小径



一月の
苔と
霰と
緑ごくごく喉を潤し
千も
万もの
?が跳ねる

 *

木の洞
熊笹の茂み
星へと
この石段を登るのではなかったが
光の中に
濃厚な闇がある

 *

一羽の鵯
氷点の花
空中句碑
「寒桜なべてこの世は夢候よ」
作者など
本当は何処に居るのか一向知れぬ


 ※「憂きも一時、嬉しきも思ひ覚ませば夢候よ」 ―閑吟集193
  この詩と句は石川県立美術館での「鴨居玲展」の折に創作したもの。
  夢候(ゆめぞろ)は、鴨居玲の好んだ言葉。画集に『夢候』がある。
  美術の小径は、美術館へ通ずる石段の径。

(c) kotaro izui 1993

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