詩集 夜明けの茶柱


 キッチン・ライヴ



その男にとって
台所は劇場
一人で
何役もこなし
一人で
幾つもの楽器をこなす
普段は寡黙で
閉じ籠りがちなその男
一日に
二度か三度
台所で女に逢い
話の調子で
想像力が暴走してしまうのだ
女は
一人涙ぐんだり
一人笑い転げたりして
やがて疲れて話の腰を折る
そうして
あっさり仕事か
夢路に入っていく

男は一人興をさましながら
コーヒーを淹れ
顔を洗い
また長い籠りの旅に向かうのだ

(c) kotaro izui 2000

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