小詩集 そこらの春
大山椒魚
梅雨の底で
夜の底で
大山椒魚のようだ
悲しみは
水気たっぷり
万年筆はインクを洩らし
スピーカーは
軋んだサックスを放っている
*
A*も
B*も
C*も
檻の中にぶち込まれた
非情は
音を鉱物にする
無情は
人を岩石にする
そうでなければ蛹だ
D*は
ついに羽化してこなかった
*
古い原稿用紙の
真ん中あたり
升目に一文字
蛹
と書いて閉じこめた
*
へうはく
大山椒魚の
たましひが呟くと
遠く
南海の嵐が聞きつけて
腹の底から笑った
これでも喰らえ
四畳半の
原稿用紙は水浸しだ
註*A…Art Pepper
*B…Bud Powell
*C…Charlie Parker
*D…Dodo Marmarosa
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