小詩集 そこらの春


 大山椒魚



梅雨の底で
夜の底で
大山椒魚のようだ

悲しみは
水気たっぷり

万年筆はインクを洩らし

スピーカーは
軋んだサックスを放っている

 *

A*も
B*も
C*も
檻の中にぶち込まれた

非情は
音を鉱物にする
無情は
人を岩石にする

そうでなければ蛹だ
D*は
ついに羽化してこなかった

 *

古い原稿用紙の
真ん中あたり
升目に一文字

  蛹

と書いて閉じこめた

 *

へうはく

大山椒魚の
たましひが呟くと
遠く
南海の嵐が聞きつけて
腹の底から笑った

これでも喰らえ

四畳半の
原稿用紙は水浸しだ



  註*A…Art Pepper
   *B…Bud Powell
   *C…Charlie Parker
   *D…Dodo Marmarosa

(c) kotaro izui 2014

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