俳句表紙19901992

黒 点  




万芽黒点深山情オリオン

1991年


  万芽



寒明て又空爆のニユースから


雪童子片つ端から星逐ふて


宇宙大爆発かくて万芽の季節かな
  ※宇宙大爆発=ビッグバン

春笑の死者もろともの山河かな


春人としてあい会へば事足れり


白梅のうるんで夜の星となり


漏れ癖のある万年筆や春の雨


オリオンの畠に桃の花ひかる


塵積る望遠鏡の日永かな


花時のまた美しき地球照

  吉岡禮子詩集
春燈の零れて『部屋』といふ詩集

  山本公成心臓を患ふ
春満月劇薬潜むペンダント



  黒点



引越の騒ぎは何語青葉闇


木下闇こゑを発するのど仏


桃青といふ署名ある五月闇


六月の太陽黒点あからさま


黒点を打ち込む蕪村落日図


夏ごころまた黒点のごときもの


黒南風や山は火を噴く黒点期


物思ひ尽きて頭上に白鳥座


天球儀抱へて昼寝したまへり


包み紙解かず本ある暑さかな


虹の絵に虹の話の消ゆるまで


月光はさて鬱蒼と茂りをり


原爆忌の第三惑星人の群れ



  深山情



倶利伽羅の峠に入れば驟雨


国境雨降り分けて葛の花


南瓜や盆地は山を逃げられず

  信濃デッサン館
秋暑し槐多の裸婦の腰まはり


乳癌の手術を終へて山母子

  高山・高原の心象、また平地と異なり、
  ミヤマスミレ、ミヤマリンドウの如く、
  ブータン、チベット、アンデス山中の
  人々の精神もかくならんか?

霧中のミヤマココロと申すべし


やはらかに茸の抜ける音がして

  東京世界陸上選手権。
  棒高跳びで大会新記録。

月清か鳥人ブブカ地を離る


月明の人魚かなしきまで泳ぐ


空瓶に秋の空気の充ちてをり


虫の音にまぎれて仏鳴き給ふ


つりがねの花を滴る露のこゑ


心象も渦巻く銀河修羅の秋


つくづくと野分の後の木々が立つ


岩手県地図に見入れば秋の雨


長き夜の色鉛筆と星図帖


四足獣ならぬ机の夜長かな


一房の葡萄ほどには喋らずや



  オリオン



冬来るアルコベースを響かせて


易々ともの壊れゆく寒さかな


冬の旅まづオリオンの扉を開けて


朝霜や白山といふ列車来る


陽の当る音も幽かに枯葉山


千曲川その余のことも冬霞む


小春日やとくと浅間の麓なる


冬うららまた葛飾の瘋癲漢


凩やひと気も絶えて秋葉原


木枯しの駅は出口の一つきり


五角星さいの河原のねぎ畑


寒満月幼児の英語よく響く


寒月をよぎる鳥あり思念あり


短日やワイングラスに陽を入れて


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1990 / 1992




俳句表紙貘祭書屋六角文庫